フェルナンブコとは
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楽弓の代表的材料フェルナンブコは、その高密度と強度により優れた音響特性を持つ。
- 豊かな音色が得られる一方で、持続可能な資源としての管理が求められる。
- 音楽と環境の調和を図るため、フェルナンブコの持続的な取り扱いが重要である。
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フェルナンブコの輸出入規制は楽弓製作とともに音楽文化の存続にも影響を与える。
- 希少性を理解し、適切な取り扱いを促進することが未来に向けた鍵となる。
フェルナンブコは美しい音色を奏でる弦楽器にとって欠かせない弓の素材として知られています。しかし、その希少性と持続可能な取り扱いの重要性が再び注目されています。本ページでは、フェルナンブコのワシントン条約での規制強化と音楽文化との共生について、持続可能な未来に向けた取り組みについて考えます。
フェルナンブコの希少性
自然の恵みと持続可能な未来
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Point 01
フェルナンブコの生育環境フェルナンブコは、パウプラジルとも言い、ブラジルという国名の由来になった樹木です。ブラジルの熱帯雨林に自生するマメ科の樹木であり、湿気に富んだ温暖な気候で育ちます。この特異な環境は、フェルナンブコに弓材として最良の強さとしなりを持たせ、音響特性を育む要因となっています。
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Point 02
伐採規制の重要性フェルナンブコはその貴重さから伐採が規制されてきました。この規制により、持続可能な伐採の中でのみ認可されていましたが、現在では環境への影響を最小限に抑えるため伐採が禁止されており、新たな製材も行われていません。
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Point 03
希少性がもたらす意味希少な素材であるフェルナンブコは、楽弓製作において最高の音を提供するだけでなく、ブラジルの環境保護の象徴でもあります。この貴重な素材の管理を通じて、音楽と自然の調和を図る重要性が再認識されています。
CITES(ワシントン条約)・環境保護の取り組みと規制
音楽の世界において、楽器はその音色を形成する重要な要素です。中でもフェルナンブコは、弦楽器において欠かせない楽弓の材料として知られています。しかし、フェルナンブコはブラジルにのみ自生する固有の種(正式にはブラジルボク、パウロベルモンド)としてワシントン条約において国際的な規制の対象となっています。
私たちは、希少なフェルナンブコを使用することで、ヴァイオリンなど弦楽器を奏でていますが、その一方で、自然環境への影響とも関わりがあるということを理解する必要があります。これまで森林伐採が進む中で、フェルナンブコの確保には厳しい規制が設けられ、2025年のCITES(ワシントン条約)会議で、ブラジルから提案されたさらなる重い規制への格上げについての動向が注目されました。
CITES-ワシントン条約(正式名称:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)は、絶滅の危機にある野生動植物の国際取引を規制し、保護するための国際条約です。1973年に採択され、現在多くの国が加盟しています。主な内容は、絶滅のおそれのある動植物の種を「附属書I」「附属書II」「附属書III」に分類し、それぞれの種の国際取引について厳格な許可制度を設けることで、不法な取引や乱獲を防止することにあります。 フェルナンブコは伐採されてしまっている製材及び製品が附属書Ⅱ、自生する原木が附属書Ⅰに分類されていました。
附属書I - 絶滅のおそれがある種
- 商業目的の国際取引は原則禁止(特例的に科学研究など限られた目的のみ許可)
※ブラジルボク=パウロベルモンド=フェルナンブコの原木伐採の禁止
附属書II - 現時点で絶滅危惧種ではないが、将来的に危険がある種や、附属書Iの種に類似し濫獲の可能性がある種
- 国際取引に輸出国と輸入国の許可が必要(輸出許可証が主)
※フェルナンブコの製材製品のブラジルからの輸出禁止
附属書III - ある国が他国に協力要請し、その国で特に保護を要するが、附属書I・IIほどの規制がない種
- その国の輸出許可が必要
これにより、種ごとに適切なレベルで保護と取引規制が行われています。 また、楽弓にしばしば使用される象牙、鯨の髭、そして鼈甲(ウミガメ由来のもの)はすべて規制対象に含まれほとんどが附属書Ⅰに分類されており、輸出入や携行が厳しく制限されています。
今回のCITES COP20 (第20回ワシントン条約会議)で、国内で伝えられたのはニホンウナギの規制(結果は回避)動向ばかりでしたが、実はフェルナンブコも象牙や鼈甲と同じく附属書Ⅰに分類されるかどうかが焦点になり、この業界では大きな注目点となっていました。もしⅠ類に分類されるとどうなるか。海外遠征をする各国の演奏家たちが楽弓を携行することが困難となること、楽弓製作者たちの生計を消失させてしまい、音楽文化に多大な影響を与えてしまうことから、「種の保護」「音楽文化」のいずれを守るのか、またはいかに共存するかの方法について論議がなされたのです。

CITES COP20 ウズベキスタンの採択結果
2025年11月終わりからサマルカンド(ウズベキスタン)で開催されたCITES締結国会議にて、これまで附属書IIに掲載されているブラジルボク、フェルナンブコ関連の材料や製品に対して、ブラジルからの提案で附属書Ⅰへの格上げが論議されましたが、結果的に条件の厳格化を条件に附属書Ⅱへの据え置きが決定されました。フェルナンブコについてのCITES COP20で今後の規制強化が決定された商業取引の主な変更点は、
1. 取引許可の厳格化
製材化・製品化されたフェルナンブコ材を含む附属書II種は、従来の輸出許可に加え、輸入許可(受入国側の許可)の義務化が強化されました。 これにより、輸出入両国政府が取引の合法性と持続可能性を二重に確認することが必須となります。
2. 原産地証明と持続可能性の判断要件の厳格化
輸出許可発行前に、原産地の合法伐採及び持続可能な利用であることをより厳格に証明する必要が生じました。 違法伐採防止のための現地調査や報告を義務付ける措置も追加されます。
3. 製品の明確な識別と追跡
製品レベルでの識別(製品コードやラベリング)を義務化し、違法取引防止及び取引履歴追跡の透明性向上を図ります。
4. 一定量以上の商業取引への追加報告義務
一定量を超える輸出入については、事務局への事前報告や年次報告が義務化され、取引動向のモニタリングが強化されます。
演奏家や個人が国境を越える際の携行はこれまで同様に規制の対象外となります。
つまり、製品としての輸出入について厳格化され、新たに伐採されたものではないことや、過去に製作されたものであること、過去に製材として輸入された材料で製作されたものであることの証明書の義務化、保有している製材の登録など商取引についてより厳しい規制がかけられます。
ブラジル国内での伐採の禁止、製材製品の輸出禁止がなされていることから、すでにヨーロッパ、アメリカ、日本などに輸出されてしまっている製材で製作すること自体は何ら問題はありませんし、かなりの量が蓄えられているとは思われます。
楽弓は今のスタイルのものでも200年以上前から製作されており、フランス、ドイツ、イギリスで歴史的な発展を遂げて、性能的、骨董的価値が高いものが数多く存在します。これらの歴史的産物もフェルナンブコで作られているのであれば規制の対象となります。商取引など輸出入にとって規制が厳格化にはなりますが、全てが停止し、フェルナンブコ製の楽弓が入手できなくなるわけではないということを確認しておきたいと思います。
楽弓は今後価格高騰するのか
ここまでのお話で、多くのお客様から尋ねられるのが、今後弓は値段が上がっていくのかどうかということです。
端的にお答えするならば、答えは「YES」ですが、必ずしもフェルナンブコとワシントン条約の関わりばかりが要因ではありません。
現在このブログを書いている2026年1月は、際立った円安と、特にユーロが史上最高値の水準にあります。また、失われた30年と言われるように、日本は長きにわたり物価や所得が伸びず、先進国の中でも最低の水準にあります。ここのところようやく物価が上昇し出し、そこに賃金が追従できるかどうかや、物価上昇に対する対策などが取り沙汰されています。一気にヨーロッパの物価に追いつくことはできませんが徐々に物価自体が上昇すれば、すでに高騰している楽器や楽弓について相対的には安く感じるようになるのかもしれません。その点ではこれ以上の円安が進まないことを祈るばかりです。
では、「YES」とお答えしたようにさらに値上がりをする可能性があるとすればその要因は何なのか。それは商取引の煩雑性に対する対価の上乗せがまずは挙げられます。輸出入に手間とコストがかかるようになるためです。次に、製作家がフェルナンブコの希少性が増したからという理由づけで、製作原価が高くなる可能性です。すでに市場にある製材の数量は当面増加はせずに最低数十年にわたり減少の一途となります。その点はこれまでと変わりがありませんが、今回のCITESⅠ類への移行の可能性(実際には移行されず)があったことで、より価値が増したと考える人たちもいるという事実です。これによって値上げが起こることは否めません。
また、いわゆる名弓と呼ばれるフランスなどの歴史的な楽弓についても、近年、希少性から市場価格が高騰していましたが、こちらも商取引の規制になったことでさらなる高騰は免れないでしょう。
では、いつか弓は作れなくなってしまうのか。そうならないようにさまざまな取り組みがされていますが、大きく二つの取り組みがあります。
①代替材料の使用
歴史的に見た時、これまでもフェルナンブコ以外に使用されてきた楽弓の材料を挙げると、 「アムレット」 学名: *Homalium spp.* 「スネークウッド」 学名: *Brosimum guianense* 「アイアンウッド」 学名: *Casuarina spp.* 「エキゾチック」 学名: 不特定 (個別の樹種による) 「アカシア」 学名: *Acacia spp.* 「イチイ」 学名: *Taxus spp.* などがありますが、いずれもフェルナンブコの耐久性、操作性、音響性能に優ることはなく、淘汰されフェルナンブコが主流で使用されてきたと言えます。19世紀の半ばにフランスのJ.B.Vuillaumeが研究したスチールBOWや、現代ではカーボン製なども開発されてきましたが、特に音響性能においてフェルナンブコを凌ぐ評価は得られていないのが実情です。そして最も注目されている製材が「パウダルコ(イペ) 学名: *Tabebuia impetiginosa* です。比重がフェルナンブコに近く、近い操作性を持つとして評価されています。現在、比較的低価格の商品に使用されてくるようになりました。また、「メキシカン・フェルナンブコ」学名*Caesalpinia mexicana*等はブラジルのフェルナンブコとは異なる種ではあるものの近縁種であるために、似通った特性を有しているとして着目されています。なお、廉価品に日本で使用されてきた通称ブラジルウッドと呼ばれたものは、マサランデュバという同じくブラジル原産の木材ですがフェルナンブコとは異なるものになります。
②ブラジルにおける森林保護政策とフェルナンブコの植林
1999年から始まった「ブラジルボク(フェルナンブコ)」に関する植林プロジェクトがあります。1990年代後半から、ブラジルの熱帯および亜熱帯地域での森林減少と土地劣化が深刻化し、これに対処するため、比較的速成性で土壌改良効果があるマメ科のブラジルボク樹種が注目されるようになりました。 ブラジルボク自体が絶滅の恐れがある種とされますが、この種を中心に劣化土地の回復と緑化促進が行われています。 政府やNGO、研究機関が協働して広域に植林展開をし持続可能な森林回復地域の拡大と土壌状態の改善が確認されています。では、いつ頃に森林が元通りになり伐採が可能になり製作に使用できるのでしょうか?概してフェルナンブコが製材として使用できる太さに育つのに60年、製材して乾燥に20年と考えると植林から最低80年後ということになります。経過した年月を考えても60〜80年後にようやく使用できるということになります。伐採していいところまでずっと増え続ければという条件をクリアするためにはもう少し年月がかかるのかもしれません。この空白の期間を、現在各国にある製材の在庫で保たせられるかどうかですが、①の代替品を交えながら、自然の回復を待つことが求められていると言えるでしょう。
下の画像はヴィルトゥオーゾ所有のJ.B.Vuillaume工房1840年頃のSteel Bow
この当時から新素材のへの探究がなされていたことを知る歴史的遺産
一番大切なこと
楽器はもちろん、楽弓も皆さんの大切なパートナーです。楽器の副産品ではなく、楽弓がいかに大切かということを再認識していただき、大切に取り扱っていただきたいと考えています。これまで見てまいりました通り、フェルナンブコで作られた弓は希少性のある製材で製作されているということを見直していただきたいと思います。
弓は消耗品と言われることがあります。確かに、張ることによるテンション(圧力)に耐えられずスティックの弾性がなくなったり、反ってしまったものなど、修理をしようにも性能が得られなくなってしまったものも多く存在します。一方で、1800年頃に製作されたF.X.Tourte、19世紀の中盤のD.Peccatteなどその性能や音響が今なお演奏家から重宝される名弓など、最上級の材質で製作されたものはへたりなど全く感じない強さと弾力を持つものも多く存在しています。つまり、その時代時代で、いい材質で作られたものはこの先も持続して使用していける耐久性を持っているとも言えます。
また、大切なのは、それらをいかに丁寧に取り扱うかということだと思います。皆さんが所有する物全てが最良のTourteやPeccatte、Sartoryではありませんが、取り扱う方法と、大切にしようという気持ちはどんな弓に対しても共通のものがあると思います。
当たり前のことですが、練習、演奏が終わったらその都度弓を緩めることは、楽弓の寿命を延ばすのに大切なことです。毛が切れて片側に毛がなくなっているものをよく見ます。この状態で弾き続ければスティックが曲がる原因を作り出します。そういう意味では正しい演奏奏法で弾くことも重要ですね。セカンドボウを持たれていらっしゃる方も見かけますが、多くは毛替えなど出している間に使用するものと考えられているようです。実際に2本あるのであれば、割合は分かりませんが交互に使用することをおすすめします。メインボウの寿命を延ばせるからです。大切なのは、もしかしたら1世紀ほど出てこないかもしれない材料で作られているのですよと、自身の弓を見直して大切にすることです。価格高騰の前に、いいものを入手しておこうというのも選択として間違いではありませんが、前提には大切に取り扱い次世代に引き継いでいこうという気持ちが必要だと思います。なぜ希少性があるのかをご理解いただき、背景に音楽文化と自然界との持続的共生があるということを覚えておいていただければ幸いです。
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